最高級の空間とは、広さや建材で決まるのではない。
そこに「重心」があるかどうかで決まる。
極限まで洗練された現代建築は、息を呑むほどに美しい。
無駄を削ぎ落としたその静的な空間は、すでに一つの様式美として完成をみている。
一方で、その完璧な空間が「人が生きる場所」へと昇華するためには、空間の魂を定礎する『動的な引力』が必要となる。
真右エ門窯の放つ黒金の宇宙は、装飾ではない。
それ自体が「精神のインフラ」である。
数百年という時間が凝縮された石の理性が、炎の偶然で黒金へと変貌した時、そこに小さな宇宙が生まれる。
油滴天目という現象は、現代アートのいかなる文脈にも属さない、物理現象そのものとしての芸術である。
だから、どんなコンクリートにも、どんな無垢材にも、対立しない。
極限まで研ぎ澄まされた建築空間の静寂に対し、猛火の規律という圧倒的なカオスを一点投下することで、空間全体を無音の完全掌握へと導く。
建築家が最後に探すのは、家具ではない。
空間の審美的鎮静を司り、冷徹な建築に『魂の重力』を与える、一点の重心なのだ。
真右エ門窯の器は、飾るための物ではない。
その空間が100年後も変わらぬ格を保つための、絶対的な定礎である。
真右エ門窯 三代正嫡 馬場泰嘉

