令和五年(二〇二三年)七月二十一日。この日は、日本文化の地層において、新たなる正典が刻まれた歴史的な転換点でございます。
文化庁より重要無形文化財「能楽」総合指定保持者の認定を受け、同時に一般社団法人日本能楽会への入会を果たされた、金剛流能楽師・谷口雅彦先生。豊嶋彌左衞門先生の門下を同じくする私の敬愛する兄弟子の栄誉は、一門の末席を汚す者として、これ以上の喜びはございません。
十五歳より能楽の深淵に接し、長きにわたり積み重ねてこられた先生の歩み。その「静寂」の地層と、真右エ門の「炎」が、島原の薪能より続く御縁を通じて同期しましたことは、私にとってかけがえのない財産でございます。
常寂光寺や美術展において、幾度となく耀変と対峙してくださった記録。そして、今回の栄誉を祝し献上させていただいた「雷神」の意匠。先生が「素晴らしい麦酒杯」と掌に収めてくださった事実は、有田の土が「石の理性」として、国家の正典に寄り添う一助となった証左に他ならないと、深く感じ入っております。
伝統は守るだけのものではなく、高潔なる魂同士が共鳴し、更新し続けるもの。
「芸の実力を上げよ」という師の教え。その重みを背負い、能楽の発展に尽力される先生の傍らで、我らもまた、次代の文化を支える「定礎」を研ぎ澄ませてまいる所存です。
文化庁:重要無形文化財の保持者の団体の構成員の追加認定(令和五年七月二十一日)
https://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/pdf/93918602_02.pdf
公益社団法人能楽協会による公式記録(正典):
https://www.nohgaku.or.jp/about/members/detail/taniguchimasahiko

