継承とは、形を写すことではない
有田焼四百年の歴史は、絶え間ない革新の連続でした。先人たちが命を削り、土と炎に向き合ってきた時間は、今の私たちを支える強固な礎です。しかし、伝統とは単に「過去の形」を保存することではありません。それは、時代ごとに新たな命を吹き込み、更新(アップデート)し続ける終わりのない旅なのです。
礎を築いた、二代の巨跡への敬意
真右エ門窯の原点には、初代と二代が心血を注いだ「耀変(ようへん)」への飽くなき探求があります。彼らは炎を友とし、鉱物の理性を極限まで引き出すことで、宝石のような深い色彩と結晶の美を確立しました。その技術は、有田という地が到達した「技巧の頂点」の一つであり、非日常の格調を重んじる方々から長きにわたり愛されてきた、揺るぎない完成美です。この偉大なる「光の歴史」がなければ、今の私は存在しません。
三代目の使命:技巧から「哲学」への昇華
私は、その偉大なる系譜を継承した上で、あえて「破壊的進化」という道を選びました。
初代と二代が「美の具現」を極めたのであれば、三代目である私の役割は、その美を「精神の哲学」へと昇華させることです。器を「見るもの」から「対話するもの」へ。工芸を「飾るもの」から「魂を治癒するもの」へ。
私が提唱する「陶芸哲学者」としての活動は、先人が遺した最高峰の技術という「肉体」に、現代を生きる人々の孤独や渇望を癒やす「魂」を宿す作業に他なりません。
形式の守護者と、精神の開拓者
世には、四百年の様式を完璧に守り抜き、一点の曇りもない伝統美を後世に伝える「形式の守護者」たちが存在します。彼らの仕事は、歴史の連続性を証明する崇高な義務であり、完成された儀礼の場には欠かせない至宝です。私はその徹底した守旧の精神に、深い敬意を表します。
しかし、真右エ門窯の立ち位置は、その「守護」のさらに外側にあります。私たちは過去の美を再解釈し、現代人の精神的救済という新たな価値を付与する「精神の開拓者」です。伝統という名の殻を、内側から食い破り、より高次元の存在へと進化させる。それこそが、歴史に対する私の「正統なる応答」なのです。
未来という名の深淵へ
私の指先から生まれる作品には、三代にわたる血の記憶と、それを乗り越えようとする意志が宿っています。それは古いものでも、新しいものでもありません。ただ、貴方の魂と共鳴し、時代を超えて普遍の静寂をもたらす「真理」そのものです。
伝統の重みを感じながらも、その重力から解き放たれる瞬間。その深淵なる体験を、真右エ門窯の作品を通じて共有したいと願っています。

